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    記事No.12 [テイルズ オブ ケンプファー#4 会議は踊る] 返信ページ
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    ■12   テイルズ オブ ケンプファー#4 会議は踊る 
    □投稿者/ Castella 5回-(2012/05/16(Wed) 21:13:36)

     
     
     Die Insel…つまり「島」は、日本本州に隣接する大きな陸地である。
     かつてこの「島」は、3つの連絡橋によって本州と繋がっていたが、今はすべて寸断されている。そうすることによって陸地からの侵攻を阻止できるからだ。おかげで島は略奪者や地上系(グラウンド・)ガイストの脅威から完全に遮断された安住の地となった。勿論、航空(エリアル)ガイストや海上(ネイバル)ガイストの脅威はまだ残っているため、ブラウエライター島を守るべく今も戦いを繰り広げていた。
     そしてその「島」のとある建物にある会議室にて、血を流さない戦いが行われている。
     

     「―――これはどういうことだ?説明を聞かせてもらおうではないか、ボーゲン司令官? 先月よりもメタンガスの消費数が増えているぞ」
     勲章のついた制服に身を包む中年男性は、映画館ほどではないが大きなモニターに映った男性を問い詰めていた。そのモニターのサブ画面には二つのグラフが表示されており、片方はもう片方の2倍近くの長さになっている。
     「その通りですノイマン議長。このシタデルと工業地帯、そして人民を守るためには十分な戦力が必要です。その戦力となる戦車や航空機を動かすには燃料が要ります。勿論それらを動かすクルーには訓練が必要であり、訓練にもそれに見合うだけの燃料が必要なのです」
     モニターの中のボーゲンと呼ばれた人物はそう言った。
     
     …ルクセンブルク出身の【ヴォルフガング・シュタール・ボーゲン】はブラウエライターの将軍で、何年も昔からガイストと戦ってきた歴戦の勇士である。今ではその実力と功績が将軍という形で体現され、日本本州にあるシタデルの司令官となっていた。危険が渦巻く本州に活動拠点を置く理由は二つある。ひとつは本州奪還のための橋頭堡(きょうとうほ)の確保と、島に避難できない人を保護する為だ。その活動拠点は島周辺以上に激戦区となっており、死と隣り合わせなのである。それ故にそのシタデルはブラウエライターのテリトリーでありながら、実質独立しておりボーゲン自身が最高司令の椅子に座る「自治区」に近い場所となっていた。
     
     「ふむ」
    ワンテンポおいて、ノイマン議長は言った。
     「君の言うことは判った。だがメタンガスの供給量には限度があることは君も知っているだろう?先日も1隻の掘削船ガイストによって撃沈された。造船所は修理業務でフル稼働中であり新たな船に労力を割いている暇などない。従って今すぐ君のシタデルへの供給を増やすことは出来ない」
     
     掘削船は、文字通り海底に穴を開ける為の船である。海底(アビス)に眠るメタンハイドレートと深淵金属…別名「アビスメタル」を採取するため、ドリルやクレーンなど特殊な装備を持った高価な船だ。大量生産される戦闘艦とは違い、このような特殊な船は1隻造船するだけでも1年以上の歳月を要するのだ。勿論、発注から建造にシフトするまで期間を含めればもっと時間を要するだろう。
     
     「しかしそれでは…」
    ボーゲンは言いかけるがノイマンがそれを覆った。
     「現状でしのげ。我々にもそれらが必要だ。余裕が出来次第そちらへの供給を増加させる」
     「…了解しました。それと議長、先月要請したケンプファーの増員の件はどうなっておりますか?」
     すると議長ではない太った軍人が声を上げる。
     「ケンプファーだと?ボーゲン君はあんなうさんくさい連中を頼りにするのかね?」
     「意見は求めていないぞ、エーベルト元帥」と議長。
    「いや、言わせていただきます。21世紀にもなって剣と盾で戦うなんて正気だとは思えない。それ位ならもっと海軍への予算配分を増やしていただきたい!今の予算ではこの島を守るのが精一杯です。まだブラウエライターが国連の一部だったころは海を埋め尽くすだけの船があったのに、今となっては内海を散歩する程度の能力しかありません。これは、受け入れがたい屈辱であります。議長殿!」
    「…一言よろしいですか、議長」
    エーベルト元帥の主張をかき消すように、今度は場違いとも思われる女性が声を上げた。議長はうなずく。
    「元帥の部下の方々が掘削船を守りきれていれば、そもそもこんなことにならなかったのでは?」
    「何だと!?」元帥はムキになりテーブルを叩きつけた。
    「落ち着け、エーベルト元帥。フォーチュナ博士の言うとおりだ。そもそも君の失態が原因で掘削船が沈められ、我々の補給と経済にダメージが出たのだろう?違うかね」
    エーベルトは納得できんという表情を残しながら口を慎んだ。
    一方、フォーチュナ博士と呼ばれた女性は落ち着いた雰囲気であり、年齢と経験を重ねていると思わせない美貌を持っている。
    そしてこの女性の言うことは的確だった。この組織「ブラウエライター」の資金源は、先述の「アビスメタル」と「メタンハイドレート」から生成されるガス燃料なのである。かつてこの組織が国際連合を構成する国々の下儲けだったときは、収入の面で大きな心配事はなかった。しかし世界各国が機能を失い、社会が崩壊を始めるとこのブラウエライターも存続が危ぶまれた。しかし、そこで日本の内閣総理大臣である、黒澤聡がブラウエライターに救いの手を差し伸べた。それは先述のアビスメタルとメタンガスを提供する代わりに、日本列島を奪還するという取引であった。

    「本題に戻るぞ。―――天龍将軍。このシタデルを防御するのに十分な戦力を確保した上で、ボーゲン司令の前線基地へ派遣可能なケンプファーなどれだけ存在する?」
    天龍と呼ばれた人物はフォーチュナ博士の隣に座っているが、服装は正装というよりは野外活動をするような装いである。そして見た目から判断できるように、年齢もこのテーブルに座る面々とはだいぶ離れており、フォーチュナ博士とは違う意味で「場違い」であった。

    「えー、現在この島には80人程のケンプファーが居て、そのうち20人がふたつのチームを作っています。それら小隊が防衛をかねた遊撃任務に当たっている。…じゃなかった。当たっております、議長どの」
    天龍はなにやらテンション低めで言う。
    誰も態々そのことを指摘しようとは思わなかった。ずばり、理由を知っているからだ。
    この人物、天龍将軍は生き残っているものに限れば、最も経験豊かなベテランのケンプファーである。特に高度な戦略を使うことはないが、基礎的でありながら臨機応変に状況を読むことが出来て、最適の行動を行うことが出来る人物である。そのため犠牲者を出すことが少なく、新人のケンプファーの教育に適任であると評価されている。その評価は一般人にも広く知られており、最も有名なケンプファーなのであった。

    「言葉使いも知らんのか、将軍。それにここへ来るときぐらい服装を改めろ。サービスドレスぐらい準備できるだろう?」と、ひげを生やした軍人が指摘した。
    「将軍は一平卒からのたたき上げなんです。多めに見てあげましょう、ベルンシュタイン大佐」今度は若い将校が言う。

    ―――だがしかし、有名ゆえに目の敵にされることがある。それは同業者の嫉妬などで、具体的な理由なく彼を敵視する者だ。特に彼を目の敵にするのはケンプファー以外の兵士たちであり、彼より年齢の高い精鋭部隊に多く見られる。その一方で、議長をはじめとする多数のブラウエライター高官はそんな天龍を使える人材として評価している。彼は人々を脅かす化け物を退治してくれる。そして彼はまだ右も左も判らない新人を、屈強な戦士に育ててくれる。更には【君も天龍将軍のようなスーパーヒーローになろう!】と宣伝をかければ、島でも外部からでもヒーローになりたい若者が殺到する。そうなれば人材に苦労することはない。

    「私は天龍将軍に話を聞いている。ほかは少し静かにしていろ。で、その片方は衛兵のデルタチームだな。そしてもう片方は君の指揮するブラヴォーチーム。それで天龍将軍…残り60人はどうなのかね?」議長はそういってコーヒーの入ったカップを口にする。
    「そのうち30名はトレーニング中で、10名は教官。残りはストーカーとして活動し、他は地上軍のレンジャーに混ざっております、議長」

    そんな有名人な英雄の天龍だが、それはいささか大きな荷物を背負い込んでいる傾向にある。彼が英雄になる素質を持ち合わせているにしても、だ。実際に彼はこれまでの戦いで十分な功績を上げたものの、宣伝素材と犠牲を覆い隠すためのプラスなニュースがほしいブラウエライター上層部としては、事実以上に天龍を褒め称える必要があったのだ。それによって彼は誰もが知る英雄となり、ブラウエライターの顔となった。顔となった彼は、多くのものが尊敬のまなざしで見るが、当然そこには子供を亡くした親からの苦情もあれば、破壊の限りを尽くす暴力者というレッテルの貼り付けもあった。
    …要するに天龍は、本人の思考を文体にすれば「英雄はもういいから、そろそろ静かに昼寝させてくれ」と感じ始めているのである。だが当然、ブラウエライターはそんな人材を手放す気はないだろう。

    「つまり、派遣できるケンプファーは?」
    今度はモニターの中にいるボーゲン司令官が言った。続けて天龍自身が言う。
    「残念ながらヌル(ドイツ語でゼロ)であります、司令官」
    「そうか…それは残念だ。君のようなケンプファーが300人ほど居れば、ここの人々にももう少し静かな生活を送ってもらえるのだがな」とボーゲン司令。

    少しの合間をおいて、するとひげを生やした高官ことベルンシュタイン大佐が口を開く。
    「議長。エーベルト元帥やボーゲン司令の意見はさておき、私もケンプファーの有効性を理解できません。そちらに予算を割くのであれば、一両でも多くの戦車を作り、一機でも多くの戦闘機や攻撃ヘリコプター、一隻でも多くの艦艇を作れるようにすべきです」
    「そうでもありません」
    今度はフォーチュナ博士が介入した。
    「今ボーゲン司令官が居る湾口エリアを勝ち取ったのは誰ですか?エーベルト元帥の海軍?それとも将軍の航空隊?ベルンシュタイン大佐の大戦車軍団?いいえ、違いますわ。天龍将軍率いるケンプファーたちです。ヘリコプターがハエのように叩き落され、戦車が踏みにじられているときに、天龍将軍とケンプファーたちがモウザー級ガイストを撃破し大勢の命を救ったことをお忘れですか?」
    「…あの時は艦艇の数が不足していたのだ。航空機もな」と、エーベルト元帥。
    「俺たちは11人ぐらいだったけどな。でもモウザーは仕留めた。それでもって、気が付くとジークフリート戦車が燃えていたっけかな?」
    ため息をつき、天龍は腕を組んだ。だが議長の目に留まったのであわてて戻す。
    更に今の台詞は陸軍高官のプライドを突き刺したようだ。
    「ウソを付くな若造!戦車の援護なしに、勇者気取りの貴様らに何が出来る!?議長のお気に入りだからといって調子に乗るな!」
    「そういう将軍の戦車は一両10億円近くする割には、10年も生き残った車両はありませんのね。今目の前に居る私のケンプファーは10年以上戦闘の酷使に耐えているけど」と、フォーチュナ博士。

    更に言い争いは続いた。
    天龍はうんざりしたように首を横に振り、高官らはケンプファーと戦車、もしくは飛行機や戦艦がどうのという議論を続けている。

    「そろそろいいだろう?落ち着け諸君。これでは「会議は踊る」ではないか。私に言わせてもらえば、ケンプファーの有効性はゼロではない。未知数な部分もあるが、今後の活躍を期待したいと思っている。だから諸君らも出来る限り協力を…」

     静まり返る会議室に、突然電話のブザーが鳴り響いた。
     議長は受話器を取る。
     
     「――― 議長、レンジャーのジュリエット・チームが間も無く帰還します」
     「そうか。対象は確保できたか?」
    議長は控えめながらも、嬉しそうに声を上げた。彼は左手でマウスを動かしノートパソコンを操作し始める。そこに出ていたのは垣内拓馬のプロファイルだ。それを見たとたん男性は眉をしかめる…というよりはクエッションマークを浮かべた。
     「天谷(あまがい)君、これは住民データではないか?私が見たいのはケンプファー候補者のレポートだ」
     「そうですけど違います、ノイマン議長。この人物が難民キャンプで回収されたケンプファー候補者なんです」
     「ふむ…まあいい。手術は済んだのか?被験者の容態が回復次第、ラボによこしてくれ」
     「わかりました」
     
     そのやり取りを見ていたフォーチュナ博士が言う。
     「ボーゲン司令、よかったですわね。近い未来ケンプファーの増員が出来そうよ」
     
     
     
    8月3日加筆。
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