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    記事No.15 [テイルズ オブ ケンプファー#5 青騎士] 返信ページ
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    ■15   テイルズ オブ ケンプファー#5 青騎士 
    □投稿者/ Castella 9回-(2012/05/23(Wed) 20:40:30)

     

     “一体何があってどうされたんだ? 目が覚めると病院らしき場所のベッドの上だったが、自分自身の状況を把握できなかった。ただ一つわかることは、俺はもう俺ではないということだ。首の後ろにはコンセントを差し込むようなプラグが奥深く埋め込まれている。手で触れただけでも背筋が凍りつくような現実は、受け入れることなんて出来るわけがない。一体どこの誰が、何のために俺を人体実験に使ったんだ?怒りと恐怖が入り混じる今の俺に、その答えを知る術はない”

     
      
     
    「―――ようこそ。人類最後の砦ブラウエライターへ」
     …目が覚めた拓馬は看護師の手によってこの部屋に連れてこられた。自分自身の体すら受け入れがたい状態にあるのに、周りの状況すら受け入れる前にどんどん進行していく。
     「垣内拓馬だな。私はここの責任者であるウルリヒ・ノイマンだ。君のプロファイルは読ませてもらった。だから「よく戻った」が適切だろうか。まあいい。早速だが取り急ぎ至急テストを済ませたいので、部屋の中央にある椅子に腰掛けるんだ」
     スピーカーから流れるノイマンと名乗った男性の声。部屋の奥の高いところに窓が見える。声の主はそこからこちらを見ているのだろう。
     「俺をどうする気だ?」
     勝手にコンセントを埋め込んでおいて、その上まだ何かを取り付ける気なのか?とムキになる拓馬。
     「君に新しい存在意義を与えるだけだ。存在意義がなくなったが故に島を追い出された経歴は知っている。だから私らは君にもう一度挽回の機会を与えよう。どのみち、今の君に選択肢はないだろう?難民キャンプは完全に破壊されたのだからな」
     
     その明確すぎる台詞は拓馬の熱くなった頭を冷やした。確かにその通りなのだ。島を追放されシタデルも破壊された今、拓馬に帰る場所も行く先もない。今後も生きていくのであれば、素直に従うほかがない…。
     拓馬は言われたとおり椅子に腰掛けた。だがこれは見たところ普通の椅子じゃない。丁度死刑囚の処刑に使われるような、手錠と足枷のついたやつだ。
     
     「フォーチュナ博士、やってくれ」
     「はい」
     管制室でのやり取りと同時に、唐突に現れた研究員たちが早速それで拓馬を椅子に固定し始める。悪い予感がしていたが、それは予感でなく確信だったのだ。そして研究員たちが姿を消すと、突然首後ろにある例の場所を突き刺されたような痛みに襲われる。手足がいわゆる「他人の手症候群(エイリアンハンドシンドローム)」のようにバタバタ動き出し、息苦しさと心拍数の上昇が確実に感じられた。更に痛みは例の場所から頭や背中へと広がり、熱く煮えたぎるなべの中に放り込まれたような感覚だった。
     これは殺されるに違いない。そう確信した拓馬だが、勘と現実はイコールで連結されていなかった。やがて痛みは徐々に消え去り手足の震えも治まった。呼吸も整い、落ち着いたところで椅子への拘束が研究員らによって解呪される。
     
     「…どうだ、博士?」
     管制室のコンピュータを操作しながらフォーチュナ博士は言った。「インプラントは正常に稼働中。脳神経との接続も良好。問題点は特に見当たりません」
     「よし」
     ノイマン議長とフォーチュナ博士はともに満足していた。
     インプラント器具は適性のない者に埋め込めば、たちまち神経を破壊し人間という知的生命体をただの肉片にしてしまうのだ。運がよくても永続的な障害が残り、体が人間とは思えないような形に変形してしまうことすらある。ただし、それは昔のことであり、最近では技術の向上により手術ミスはかなり減ってきている。
     更に付け加えておくと、インプラント技術は本来医療目的で作られたものである。特に知られているインプラントとしては「ペースメーカー」があるだろう。あのように体内に埋め込む医療器械の総称が【インプラント】なのだ。このブラウエライターが用いるインプラントもそれの派生形であり、人体に埋め込んで使う代物である。そしてこれは、ペースメーカーに例えられるように体の調子を整えることもするが、今のインプラントはそれだけではない。体内にあるあらゆる細胞に活性化を促し、通常以上の再生能力と運動能力を付与するのである。そして更に…。
     
     ノイマン議長は言った。
     「おめでとう。君は88人目の近代戦士ケンプファーだ」
     
     …拓馬は思った。勝手に人体実験をしておいて、今度は意味不明なこと言いやがる。そもそも何なんだ?ケンプファーとは?
     混乱と疲労に見舞われる拓馬に対し、ノイマンはすぐに次の行動を指示した。
     「この後は精密検査を受けてもらう。埋め込んだインプラントが暴走して君が肉片にならない為にな」
     なんだって?
     それは一体どういうことなんだ?きっちり説明してくれ…と拓馬は講義しようとしたが、研究員たちによって実験室を連れ出された。
     
     ―――実験室上層階にある管制室に残った議長と博士。議長はスピーカー出力がOFFになっているのを確認してから口をあけた。
     「さすが垣内隊長の息子だ。態々立ち会った甲斐がある」
     「…といいますと、ストーカーチームの垣内隊長ですか?そういえば、探索任務の途中で消息を絶っているのでしたね」
     「ああそうだ。天龍将軍のように使える人材だったが、もうMIA(行方不明)となってずいぶんな時間が経ってしまった。惜しい人材をなくしたものだ。…あと、もう生存は見込めないだろうが、子のほうに父親の死亡通知を知らせる必要はないぞ」
     「どうしてですか?」と、フォーチュナ博士。
     「父親が生きていると思っていれば、子は必ず探しに行くだろう。もしかすれば、あいつは親のタスクを引き継いで「聖域」への道を開いてくれるかもしれん。きっちり働いてもらう為にも、余計なことは何一つ伝えるな。君も君の部下にも徹底しておくように。以上だ」
     「わかりました、議長」
     
     その後フォーチュナ博士は議長と別れ、無機質な通路を巡り医務室へ向かった。
     「はじめまして。私はレイア・フォーチュナ。医者であり研究者よ」
     
     医務室に居たのは拓馬だ。拓馬は「だから何なんだ?」という表情で彼女を出迎える。
     
     「随分と目つきの悪い坊やね。私は瀕死の貴方を助けたのだから、感謝される筋合いは合っても恨まれる筋合いはないわ」
     「生きていても、どうしろ言うんだ?」
     拓馬はため息をつき、うつろに言った。
     「…難民キャンプのことは気の毒に思うわ。其処には友達とかも居たでしょうからね。でもそれなら、あなたは「仇をとってやるぞ」とか思わないの?私がこれまで目にしてきた男子は、多くがその意気込みで立ち直っていったわ」
     「力も武器もないのに、どうやって化け物どもと戦う?」
     拓馬は言った。自分は映画のアクションヒーローでもなければ、軍隊のレンジャーでもない。ただの…退学した落ちこぼれだ。
     するとレイア・フォーチュナ博士は言う。
     「じゃあ、力も武器もあれば貴方は戦うのかしら?」
     拓馬は沈黙を続ける。
     
     「…言っておくわ。貴方はインプラント技術に適正した選ばれし者よ。もう既に気が付いているでしょうけど、怪我は完治したわ。そしてその気になれば、貴方はそこのセキュリティ・ドアをぶち破り、ビルからビルへと飛び移ることも出来るわ。更に必要とあれば、化け物を素手で叩き潰すことも出来るのよ」
     
     拓馬はかすかに鼻で笑った。そんな映画の中みたいなことが出来るわけもないと。
     
     「まあ、そのうち判るわ。どちらにせよ貴方はもうブラウエライターの一員なのだから」
     「…いや待て。俺はやるなんて言っていない」
     「いいえ」フォーチュナ博士は言った。「貴方に自由は与えられないわ。でも、かつて自由だった時代を取り戻す為の力と機会を与えるわ。そして、難民キャンプとは比較にならない水準の生活と娯楽もね。そして貴方が望むのであれば、失われた高校生活を取り戻すことも出来るのよ。そして、今後の人生を考慮するなら、是非アビトゥーアになることをお勧めしておくわ」
     
     「…高卒?アビトゥーア高校を卒業することか?」
     拓馬は思い出した。ゲオルクがよく「トラクター工場は、本来高卒(アビトゥーア)でないと雇ってくれない」と。
    そこで拓馬は気が付いた。ゲオルクは…あの後ゲオルクはどうなったんだ?
     
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