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記事No.16 [テイルズ オブ ケンプファー#6 空松中央高校] 返信ページ | |
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■16 テイルズ オブ ケンプファー#6 空松中央高校 | |
□投稿者/ Castella 10回-(2012/05/25(Fri) 17:54:23) |
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「…アビトゥーア?高校を卒業することか?」 拓馬は思い出した。ゲオルクがよく「トラクター工場は、本来高卒(アビトゥーア)でないと雇ってくれない」と。 そこで拓馬は気が付いた。ゲオルクは…あの後ゲオルクはどうなったんだ?「俺以外にここへ収容された生存者はいないのか?」と聞いたそのとき、医務室に大男が入ってきた。 「あら天龍。どうしたの?まだ呼んでいないわ?」 その天龍と呼ばれた人は、まるで友達と挨拶をするかのように「よう」と軽く拓馬に挨拶をした。 ―――拓馬はこの人を知っている。たとえ「島」に在住しない者であっても、この人物のことは誰でも知っている。ブラウエライターの顔でもあり、幾度の修羅場を勝利へと導いた伝説の戦士、天龍フェイラン将軍だ。拓馬がかつて身を寄せていた難民キャンプ…もといシタデルでも、レンジャー募集の求人広告を見たことがある。天龍将軍をはじめとする、屈強のレンジャーたちと共に人類のため戦おう。…は、有名な宣伝文句だ。 「まあそんなに睨むなって。俺は上層部の石頭連中とは違う。まあ気楽にやろうや」 続けてフォーチュナ博士が言う。「そんな事言っているから降格するのよ。もっと言葉使いに気をつけなさい」 天龍は「別にいいさ」と軽く笑う。 続けて彼は言った。 「ま、これで拓馬も晴れてケンプファーの一員だ。これからは俺のチームで一緒に戦ってくれ。嫌だといっても、知っての通りこうなった以上は拒否権がないからな。困ったもんだぜ」 …拓馬は思った。そしてたずねる。 拒否権がないというならば、力ずくででも拒否することは出来ないのか?そもそも、天龍のような無敵の英雄なら、そんなこと朝飯前なのではないだろうか?と。 「いやー。それがそうも行かねぇんだ。俺たちの後ろにあるプラグの中に、忌々しいインプラントがあるだろ?こいつは発信機にもなっていて、脱走しても簡単に居場所を突き止められ連れ戻される。あと、クーデターとかを目論むもんならインプラントを強制停止させられるぞ。そうなったら鉢から出された金魚になっちまう。だから大人しく従っとけ。以上」 「どういう意味だ?」 「俺たちゃ死ぬはずだった身だが、インプラント技術で生きながらえている。それが停止すれば、ペースメーカーが無くなった病人と同じだ。上層部は俺たちの命を握っているのさ。胃が痛くなる現状だろ?」 つまりケンプファーとなった者は命を救われた代わりに、ブラウエライターの為に働かないといけない訳だ。だが天龍は言う。とりあえず命令に従っていれば、難民キャンプよりは遥かに高水準の生活を提供してもらえると。いわゆる「ハイリスク・ハイリターン」なのだ。 一方で、そのハイリターン…つまり高水準の生活に憧れて、進んでケンプファーになる者もいるという。だが、ハイリスクの文字通りケンプファーの仕事は死と隣り合わせだ。油断すればあっという間に天国へ召されるとのことである。そんなケンプファーを増やさないために、天龍は拓馬を直属の部下としてトレーニングするというのだ。 「と、言うわけだ。早速“ピクニック”にでも行こうぜ」 楽しくなさそうなピクニックだなぁ…と思う拓馬。すると「待ちなさい、天龍」とフォーチュナ博士は制止した。 「レイア博士。知ってのとおりケンプファーは深刻な人手不足だ。だから早速訓練を始めるんですよ」 「だから待ちなさいといっているの。物事には順序というものがあるわ」 天龍は聞く耳を持たず、拓馬の手を引いて医務室を後にした。 “―――おれは自分の境遇がよくわからなくなってきた。いや、今に始まったことじゃないのだが。とにかく落ち着き、自分の脳みその中を整理する必要があるだろう。今は西暦2027年で、人類はガイストと呼ばれる知的生命体との戦いの真っ最中にある。俺は日本本州と隔離された「島」に住んでいた航空学生だった。でも、高価なグライダーを何回もぶっ壊したせいで退学処分になった。ニートになった俺は仕事にもありつけず、奨学金も現金収入も無い為、とうとう島に居られなくなった。そんな俺は島から離れた本州の難民キャンプに身を寄せた。しかしそのキャンプは壊滅し、今は再び島へと戻ってきた。…だが自由がなく、義務を伴った新しい人生を背負ってだが” 「…過酸化水素(かさんかすいそ)は強い腐食性を持っているので、決して素手などでは触らないように。しかし今から100年ほど前に、ドイツ人のヘルムート・ヴァルター博士は、過酸化水素が分解される際の水蒸気と酸素を、何らかのエネルギーとして利用できないかと考えたのだよ。そこで生まれたのが「ヴァルター機関」と呼ばれるロケットエンジンだ。これは主に…」 木材フローリングの床で心地よい教室には、男女合わせておおよそ40人。黒板はなく、そこにはタッチパネルを採用したデジタルスクリーンが埋め込まれている。生徒たちの机には、文房具と教科書ではなくノートパソコンがひとつあるだけだ。これは時代の流れの具現かの他ならないだろう。そして、生徒たちは静かに授業を聞いているように見えるが、全員がまじめに聞いているかというとそうでもない。とある男子は、本来教科書が映し出されているはずのPCのモニターに、漫画の1ページが映し出されている。その隣の女子のPC画面には、なにやら占いの記事らしきものが表示されていた。 「…という具合に、ヴァルター機関を用いた「ロケットベルト」はうさんくさいところもあるけど、これはちゃんと実在したのだよ。特に有名なのは1984年のロサンゼルスオリンピックの開会式だ。映画のような特殊効果はなしで、このロケットベルトは観客たちの前で実際に飛行をして…」 一方で、教室がデジタル化されていても、生徒たちのやることは昔からあまり変わっていなかった。 「ねぇ聞いた?先日転校してきた彼だけど」 みつあみの女子が、先生の視線を気にしながら隣のショートヘアの女子にひそひそ話しかける。 続けてみつあみの女子はこっそり告げる「…彼、ケンプファーってうわさよ」 「うそ!?」 女子の片割れはハっとして先生のほうへ目を向ける。どうやら気が付かれていないようだ。 「だって見てよ。ほら、首の後ろにプラグが付いてるし」 女子二人が見ているのは、うつろな表情で教科書を見る男子の首にあるプラグである。 当たり前だが、普通の人にプラグなどは付いていない。 好奇心旺盛な二人は、授業終了後の行動を確定した。 「―――ねえ、垣内拓馬君だったっけ?」 うつろな拓馬の視線に、とつぜんブルーのタータン模様のスカートが現れた。自分自身のスラックスと同じ模様のタータンチェックだ。そして視線を上に向けると、かすかにピンクが混ざったブラウスとネクタイ。そして黒い髪をみつあみにした女の子が自分を見ている。 拓馬は心の奥で感嘆(かんたん)の声をあげたくなった。どうして学校の制服は、平凡な女の子をアイドルのように仕立て上げるのだろうかと。 「ああ、そうだよ」拓馬は言った。 「もうだいぶうわさになっているけど、君はブラウエライターのケンプファーなの?」 結論から言えばイエスだ。俺はブラウエライターに所属する、ケンプファーという名の戦士だ。 「ま、まあ…」 それを聞くと、みつあみ少女はにこっと笑って手を差し出した。 「わたし、天谷志亜(あまがいしあ)!よろしくね!」 拓馬は差し出された彼女の手を握る。冷たくて小さい。 そういえば、女の子の手を握るなんてどれくらいご無沙汰だろうか?ひょっとすると…初めてだろうか? 続けてショートヘアの方も口を開き、「ということは、外でガイストと戦うのでしょ?怖くなかった?」と尋ねた。 …授業終了後、拓馬のところに寄ってきた生徒は天谷しあとショートヘアの子だけだったはずだ。それなのに気が付くと、拓馬は人ごみに埋もれていた。実は水面下とはいえ拓馬の存在はクラスじゅうの話題になっていたのだ。他にも「どうやって選ばれた?」や「手術に失敗すると肉片になるというのは本当(マジ)なのか?」「魔法を使えるの?」という質問が足並みをそろえて攻め込んでくる。 「みんな落ち着いて。口は一つしかないのだから、質問は一つずつ消化していかないと!」 「そういう天谷だって質問したいのじゃないか?」と、別の男子生徒。 「ちがいます!私はケンプファーたちの立介者として、仲介人として…」 「あれは放っておいていいから、とにかく戦いのことを話してくれよ」 「それより何処から来たの?」 質問攻めの最中、拓馬は思う。 ここ最近は超が付くほど忙しく、目が回るほど自分を取り巻く状況が変化していった。 ガイスト。シタデル。ブラウエライター。そしてケンプファー。一体どこから話せばいいだろうか? |
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