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    記事No.17 [テイルズオブケンプファー#7 勇者は夢物語の中にしかいない] 返信ページ
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    ■17   テイルズオブケンプファー#7 勇者は夢物語の中にしかいない 
    □投稿者/ Castella 11回-(2012/05/30(Wed) 21:20:06)





    “――――ケンプファー。俺が知る限りで言えば、ドイツ語で戦士の意を持つこの単語は、ブラウエライターの特殊部隊を構成する特殊な戦士を意味する単語として存在している。その起源についてはよく判らないが、俺が生まれる前から計画というのは始まっていたらしい。そして俺も、今はその計画の一部になってしまったようだ。でも、科学技術によってスーパーヒーローになったのだから、幼少のときに見た悪夢に出てくる化け物なんて敵ではないと思っていた。映画や漫画の主人公のように、迫り来る敵対生物を片っ端からなぎ倒して、最後には人類を救うのだ。…たとえ「ひと時」だけでもそんな姿を頭に描いた自分が甘いとしか言えない。現実を見て、それを嫌というほど痛感することになる”


     轟音を轟かせるゼグラーフォーゲル・ヘリコプター。拓馬はその乗員室に乗っていた。
     向かい側には天龍将軍。その隣にはイヤホンで音楽を聴き、ご機嫌な「シン」とかいうケンプファーが乗っている。そのほかは共通の戦闘服を着たレンジャーたちが多数、武器の点検をしている。

    「天龍将軍。今回は新人たちの実地訓練ですか?新しいケンプファーが増えて、上層部も喜んでいるでしょう?」
     拓馬の隣に乗る、名前のわからないレンジャーの一人がそう言い、天龍が「まあな」と返答したそのときだった。
     とつぜん、火花とともに床に穴が開き、大根のように巨大な杭(くい)が突きあがってきた。トゲは暴風雨のように次々とヘリの装甲板を叩き、開かれた窓際に座っていた別のレンジャー兵士が苦痛の悲鳴を上げる。
    「傷口を押さえろ!」と、同乗していた衛生兵が打たれた兵士を窓際から遠ざける。拓馬はそれを手伝いつつ恐る恐るドアから下を眺めてみた。

     …地獄だ。
     大地は黒く染まり、都市は焼け野原のように燃え上がり、なべの水が沸騰するかのように爆発が起きている。
     その光景を見つつ、シンが口を開いた。
    “Welcome to Valhalla”
     と、短く締めくくる。その後で拓馬の隣に乗るレンジャーの一人が「ヴァルハラとはずいぶん洒落てるな」とこぼした。
     シンはゴーグルと帽子で顔を隠しており、表情はさっぱり分からない。だがこんな状況にもかかわらず音楽を聴きながら、ノリノリで体がリズムを取っている。正直戦いに向かう兵士という柄には見えない。

     ヘリの乗員室が窮屈そうな天龍将軍は「ここは初めてだろうが、命令はいつもどおり単純だから慌てるな」と言い、拓馬たちを落ち着かせた。続けて天龍は言う。「那智の親父さん、フォーゲルが蜂の巣になりそうなので適当なところで降ろしてくれないか?」
     天龍はヘリのパイロットに呼びかけた。返事はすぐ来た。
    「いや、まだ大丈夫。それに同胞に危機が差し迫っているのでしょ。おっちゃんにもひとつかじらせて頂戴」
     また大根のようなニードルがヘリの装甲板を叩いた。さっきの様に貫通したものはないが、足元をドカドカ叩かれるのはなんとも落ち着かないものだ。それが自分たちを殺そうとしているのであれば、なお更のことである。
     拓馬は時折飛んでくるニードルに気をつけながら、再び外の様子を探ってみる。何百メートルか前方に緑色の煙が見える。どうやら味方のレンジャーが発炎筒で着陸地点をマーキングしてくれている様だ。
     
     いよいよ実戦だ。別に化け物と戦うのは初めてではないが、拓馬は自分自身の心に「びびるなよ」と言い聞かせる。そして自分の装備を再確認した。持っているのはSTG-13とか言われる自動小銃と、背中に刺したバスタードソードだ。拓馬は剣を見るなり触るなりする度に、疑念を感じていた。1000年前ならともかく、21世紀の今にこんな原始的な武器が必要なのかと。しかし銃が使えないとき、丸腰になるよりはいいか。そんな軽い考えで締めくくっていた。
     
     すると突然、隣を飛んでいた別のヘリコプターが轟音と共に焔に包まれた。被弾したヘリはすぐさま黒煙に包まれ、乗っていたレンジャーたちが機外に吹き飛ばされる。
    「畜生!化け物共に攻撃されているぞ!」うろたえるレンジャーに続いて副操縦士が言った「那智さん、モウザー級ガイストに狙われています!」
     花火を打ち上げるように、地上の様々な場所からプラズマが飛んできた。飛翔したプラズマは、ヘリや何かが近づくと激怒したように爆発する。その衝撃波はヘリの内部にまで響き渡った。
    「ああ、わかっている」
     すると、那智と呼ばれたパイロットは地面に激突するのではないか?と思うぐらいに高度を下げた。間をおかず腐った太陽のようなプラズマ弾がヘリの上を飛び越え、廃墟ビルに突き刺さる。
    「目標までおよそ20秒前!」と副操縦士。ヘリは自動車のように道路上を飛ぶ。流石に他のヘリコプターは真似できなかったのか、未だにビルの上を飛んでいた。だが、天龍将軍が前方を見て「妙だ」とい言いこぼす。拓馬はどういうことですか?と聞こうとしたが、天龍の口から聞く前に事態を理解した。

    「レンジャー7-6(セブン=シックス)より接近中の味方部隊へ!着陸地点〈〈ハインリッヒ〉〉は攻撃を受けている! 繰り返す!ハインリッヒは危険だ!新しい着陸地点〈〈ドーラ〉〉への変更を提案する!」

     副操縦士は言った「将軍、どうしますか?」そして間をおかず天龍は言う「コースそのまま。突入する!」
     ヘリは度々突き刺さるニードルに耐えながら、力強く飛び続ける。もう着陸地点は目の前だ。
     だが先ほどの通信どおり着陸地点は戦闘中だった。広い交差点には何両かの軍用トラックが停車している。レンジャーたちはここを守ろうと、必死に接近するガイストに激しい銃撃を加えている。だが円陣防御は完全でなく、度々小型のガイストを円の中に通してしまっているようだ。
     「目標に接近。危険が予想される。各員攻撃態勢で出動せよ」
     ヘリが着地すると、副操縦士はマイク越しに続けた。
     「目標にタッチダウン!各員前進せよ」
     他のヘリと共に廃墟の交差点へと降り立つ。まず、最初にシンが“All right let’s go”といい零しながらヘリから飛び出す。拓馬もレンジャーたちに続いてヘリから降りるが、地面に足をつけた途端に仰天した。何者かにブーツを捕まれて地面に転んだのだ。慌てて自分をつかんだ者を探すと、それは着陸したヘリの下敷きになっている「スラッシャー級」ガイストであった。奴がヘリの下敷きで身動き出来ないのは幸いだったと思う拓馬。なぜなら、奴が自由に身動きできる状態であったならば、今頃この肉厚の腕によって撲殺されていたに違いないのだから。

     拓馬は深く息を吐き出すと、自動小銃を構え、スラッシャーの頭(と思われる部分)に銃弾を撃ち込んでやった。
     だが信じられないことに、頭に銃弾を撃ち込んだにも関わらず、スラッシャーはまだ生きているのだ。拓馬は更に2発発砲したが、結局止めを刺すことが出来ない。
     するとヘリから降りた天龍が「弾の無駄使いだ」と言いつつ、地面に杖を突くかのように、スラッシャーにサーベルを突き刺した。
     「スラッシャーを素早く仕留めたいときは、鋭利な刃物で目を突くんだ。奴の皮膚に銃弾は効率が悪い」
     天龍は拓馬の手を握り、一気に引き起こした。それから肩を一叩きし、姿勢を低くしながらヘリから離れていく。
     拓馬は遅れまいと、起き上がって天龍たちのあとを追う。それとすれ違う形で、担架に乗せられた負傷者がヘリのほうへ運ばれていく。交差点はところどころひび割れており、段差が担架を揺らすたびに負傷者がうめき声を上げていた。
    …拓馬は複雑な気持ちでそれを見ていた。
     負傷者の多くは手足の一部分が無くなっており、中にはへそより下が無くなっている人すら居たのだ。苦痛を顔に浮かべ、目から光が消えうせた者ばかり。多くの者が血で染まった包帯で傷口を隠しているが、その包帯だけでも痛みが伝わってきた。俺も一歩間違えれば、あんな風になるのか?
     「拓馬」
     最前線の光景に目を奪われていた拓馬に、天龍の声が飛び込んできた。
     「見ての通りここは安全じゃない。だが俺の言うとおりに動けば、少なくとも五体不満足にはならん。だから安心していけ!」
     上空で殺意を持ったプラズマ花火が散る中、天龍は再び歩き出した。おそらく此処の責任者と会うためだろうと拓馬は思った。しかしこんな雑然とした場所で、一人の人間を簡単に見つけられるのだろうか?
    と、思った矢先に相手のほうからこちらにやってきてくれた。
     
     「お会いできて光栄です、天龍将軍。レンジャー7-6のクレッチマン軍曹です!現在此処には多数の負傷者がおり、迅速な後送を必要としています!」
     バンダナを頭に巻き、疲労を顔に浮かべたクレッチマンは、きちっとした病院でないとけが人を救う望みはないと言った。
     「なら重傷者を優先にヘリに乗せるんだ。それより此処の指揮官は誰だ?すぐに会いたいのだが…」
     
     拓馬は二人の会話を聞いているつもりだったが、周囲の状況に飲み込まれていた。
     ヘリコプターの発する衝撃波が、砂埃を舞い上がらせ視界を濁しているものの、此処には苦痛しかないということが判る。交差点の端にはトラックやジープに混ざって野戦病院らしきテントがある。テントの下では手術が行われているように見えるが、それを確信させるかのように、足元に血溜まりが出来ている。そして、その血溜まりはひび割れたアスファルトの隙間に流れていくものの、どんどん地面に広がっていた。

    「おい。しっかりしろ、拓馬」
     天龍に肩を揺さぶられ、われを取り戻す拓馬。
    「混乱しているなら、ゆっくりと深呼吸しろ。それでも落ち着かないなら空を見るんだ。それでもって、空にある雲の中から、女の子の胸や尻に似たやつを探すのさ。わくわくして来た頃になれば、もう大丈夫だ」

     …いささか引っかかるところがあるが、拓馬は言われたとおり空を見た。
     廃墟となった高層ビルの背後で、汚れた灰色の雲はゆっくりと風に流されている。その手前を1機のヘリコプターが飛んでいく。やがてそのヘリは煙と炎を吐き出し、徐々に高度を落とし…。
     
     「すまん。空を見るのは止めだ。場所が悪かったな。すまん、すまん。でもそろそろ落ち着いただろ?」
     拓馬はとりあえず…肯定した。たしかに緊張はとれたようだ。
     天龍は現地のレンジャーとの会話を続ける。
     「で、何処まで話していた?」
     「此処の指揮官はタナカ隊長でしたが、モウザー級の攻撃で死亡しました」と、クレッチマン。
     「じゃあ、今は誰が指揮している?」
     「ユンゲルス少尉です。ここから200メートルほど離れたオフィスビルで指揮を執っています。ご案内しましょう」
     
     クレッチマンの後に続き、拓馬たちは廃墟となったオフィスビルに駆け込んだ。このビルはかなり破損しているものの、たびたび降り注ぐプラズマ爆撃に耐え、負傷者たちの傘となり続けていた。だがあと100回の攻撃に耐えられるか?となると、答えはノーに違いない。やがてボロボロな階段を上がり始めたが、その階段ですら手当てを終えた負傷者が腰を落ち着かせる椅子の代わりになっていた。場所によっては血溜まりが出来ており、うっかり踏んでしまった拓馬は転びそうになった。
     拓馬はこのビルに入ってからうすうすと感じていたが、自分らはけが人たちから猛烈に視線を集めていた。
     「…将軍!天龍将軍だ!本物だぞ!」
     「ケンプファーが援護に来てくれたのか!?」
     建物内部で何十人ものレンジャーとすれ違い、注目を浴びる拓馬たち。特に天龍は、ほぼすべてのレンジャーの注目を集めている。そしてそのレンジャーたちの目には、驚きと希望が光っているようにも見えた。
     
     「―――天龍将軍!?まさかケンプファーが援護に来てくれるとは!」
     部下と共にテーブル上の地図とにらみ合いをしていたユンゲルスは、有名人の訪問に歓喜の声を上げた。
     「あー、戦車軍団じゃなくてスマンな。」
     「いえ!来ていただいて光栄です…それより、あなたは戦場で身を危険にさらすべきではありません!」
     
     拓馬はユンゲルスの言うことを理解した。天龍のような将軍が、最前線にいるのはどうかと思う。こうして先導してくれるのは何とも心強いが、万が一戦死したりすれば、ブラウエライター全体に悪影響を及ぼすのではないだろうか?
     
     「俺はケンプファーだ。戦わなければただのオッサンだ。 …お?サツキじゃないか!元気だったか?」
     天龍の視線はユンゲルスから離れた。拓馬はその視線の先を追う。そこにはコンクリートの割れ目から出た花のように、薄汚れた会議室の一角に女の子がいた。しかしその女の子はジャンヌ・ダルクの様な戦士とはかけ離れており、落ち着かず、おどおどとしている。
     天龍は拓馬の方を向き「あいつは薊夜皐(あざみや さつき)。拓馬より少し前に選定されたケンプファーだ。ただ、ちょっと過去に色々あって、俺は心底嫌われちまってるんだ」と、苦手そうに言った。
     薊夜という女の子は、特に天龍を見ておびえているように見える。いったい天龍との間に何があったのだろうか?
     
     「…で、何処まで話したっけ?」と、天龍。
     「我々は命令で民間人の救出にやってきました。しかしモウザー級ガイストによって保有していたトラックを潰され、身動きが取れなくなっていたのです。とにかく我々は、何度かモウザーの排除を試みました。でも雑魚の妨害で思うように行きません」
     「よし、それなら今からそいつを潰しに行こう」と、天龍。続けてシンも“Oh yeah”と機嫌良さそうに言う。
     「それなら1ダースの部下を同行させます。…しかし軍艦のようにタフなモウザー級の排除には、戦車か空爆が必要です。最低でもバズーカが無いと話になりません。数時間前に援護に来てくれたシュトルムピオニアは戦車など重装備を持っていましたが、モウザー狩りに出たきり連絡が取れ…」
     ユンゲルスが地図の上で指を走らせている最中、突然ビルが爆音と共に激しく揺らいだ。モウザー級の攻撃がビル全体の鉄骨を揺らしたのだ。心配そうに天井を眺めつつクレッチマンが言った。
    「化け物が!俺たちが此処に潜んでいることを知ってやがるな!」
     そのテーブルの向かい側にいる天龍は、特に驚く様子もなく部屋を見回した。「死んでないな?」と、拓馬の無事を確認する。天井から崩れた柱が突き抜けてきたが、特に負傷者はいないようだ。だが今度はすぐ近くで銃声が鳴り響いた。
     鳴り続ける銃声に混ざり、無線越しの叫び声が飛び込む。「少尉!正面入り口のバリケードが突破されました!敵がロビーになだれ込んできます!」無線の向こう側から聞こえたのは銃声だけでなく、人間の悲鳴も大量に混ざっていた。ユンゲルスの対応はすぐだった。「すぐ行く!民間人と負傷者をロビーから遠ざけろ!」さっとテーブル上の自動小銃を手にし、クレッチマンとともに駆け出す。天龍と拓馬、シンもそれに続いた。



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