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    記事No.18 [テイルズオブケンプファー#8 新たな仲間] 返信ページ
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    ■18   テイルズオブケンプファー#8 新たな仲間 
    □投稿者/ Castella 12回-(2012/06/03(Sun) 21:03:01)

     
     ―――拓馬らはレンジャーたちの後を追い、照明が死んだロビーの2階に駆け込む。灰色のロビーで拓馬の目に映ったのは、悲鳴と銃声の修羅場だった。
     
     「一般人には何の戦闘能力もない!皆殺しにされているぞ!」
     「こっちは血の海だ!早く支援を!」
     物騒な叫びの意味を拓馬はすぐに理解した。いわゆる羊の群れの中の狼で、ガイストが民間人の非難場に乱入していたのだ!針を飛ばすガイスト(ナーベルとか言うらしい)によって、女性や老人がドミノのようにバタバタとなぎ倒される。人々は我先に逃げようと、稼動していないエスカレーターと階段に群がっていた。だが何十人もの人が一度に押し寄せれば、渋滞するのは火を見るより明らかというやつだ。そしてその光景は、銃を持った狩人の前に集まったウサギの群れでしかない。まさに虐殺だ。
     
     「援護を頼む!拓馬、行くぞ!」天龍は死神が持っていそうな巨大鎌を手に、一気に1階へ飛び降りた。シンもどこぞのミュージシャンのように奇声をあげ“Come on!”と言いながら天龍に続いた。
     拓馬もそれらに続こうと、手すりに手をかけたそのときだ。1階から飛び上がってきたヘルハウンドに襲われたのだ。サメのように凶悪な口を持った狂犬が、拓馬の首に喰らいつこうとする。パニックに陥った拓馬は適切な行動が取れなかった。だが犬は拓馬の視線から突然消えた。次に拓馬が見たのは、床に横たわる犬と煙を吐く散弾銃を持ったクレッチマンだ。
    「危なかったな、ケンプファー。しっかり頼むぜ」
     拓馬はクレッチマンの手をとり、感謝の意を述べた。
     ロビーに飛び降りた天龍は市民の壁となった。天龍は釜を投げたが、それはナーベル級ガイストどころか背後にある入り口の枠組みを粉砕し、道路上にあった乗用車の残骸までひっくり返したのだ。続けてヘルハウンド級が飛び掛ってきたが、天龍は人ごみを避ける程度の動きで次々とノックアウトしていく。シンも前後に連結された双剣(ツヴィリングシュヴェートとか言うらしい)で天龍を支援していたため、後から飛び降りた拓馬は正直何もすることがなかった。
     
     「さすが天龍将軍!お見事です!」
     2階から天龍の働きを賛美するユンゲルスの背後では、何人かのレンジャーが負傷者を担架に乗せ奥のほうへと運んでいる。先ほど見た薊夜さつきも手伝っているようだった。
     「それより負傷者を頼めるか?俺たちはモウザーを仕留めてくる」
     「了解!―――クレッチマン!何人か引き連れて将軍を支援して差し上げろ!」
     
     拓馬たちはオフィスビルを出て、残骸の山となった道路を進んだ。モウザー級ガイストの排除には大きな火力を持った武器が要る。しかし拓馬たちはその条件を満たす武器は持っていない。
     「将軍、何か考えがあるのですか?われわれの武器ではモウザーを仕留めるのに十分な火力がありません」と、クレッチマン。
     倒壊した歩道橋の影に身を潜め、周囲の状況を伺いながら天龍は言う「ああ、わかっている。だがユンゲルスの話だと、戦場工兵(シュトルムピオニア)の連中が居たんだろ?もしまだそいつ等がこの辺りにいるなら、そいつらを救出して一緒にモウザーを倒すんだ」
     「しかし、だいぶ前から連絡が取れていません。全滅した可能性もあります」
     「だとしても、使える武器が残っているかもしれん」
     
     再び前進を開始する一同。
     すると突然、レンジャーの一人が悲鳴を上げた。何事かと思って声のしたほうを振り向くと、レンジャーが巨大な黒い鳥に襲われている所だった。
     「助けてくれ!」の叫びが拓馬に銃を構えさせた。だが撃つ間もなく黒き鳥は獲物と共に灰色の空へと逃げていく。
     続けて黒き鳥が数匹、ビルの谷間から姿を覗かせた。同時にシンが“Oh my god”といいこぼす。敵が何匹いるかを数える前に「移動するぞ!」という天龍の言葉が拓馬の足を動かした。
     
     ―――一体あれは何なんだ!?
     驚愕を隠せず顔に表す拓馬。顔にはクリームを塗ったかのように、冷や汗が張り付いている。そしておちつけ!と自分に言い聞かせた直後、それをあざ笑うかのようにもう一人のレンジャーがさらわれた。断末魔の叫びがビルに反射して不気味なエコーが広がる。
     次は俺が殺られるのか?拓馬はパニックに陥っていた。だが勇敢に立ち向かうつもりで、急降下してくる黒き鳥に向かって銃を乱射した。だが敵は怯む様子も無くどんどん近づいてくる。敵との距離と死が迫る距離が比例していると思った拓馬は、とにかく頭が真っ白だった。シンが“Hurry up!”と告げてくれたが、弾が無くなるまで引き金を引き続け、挙句の果てには弾が切れた後ですらやけくそに引き金を引き続けていた。
     そしてついに、拓馬は捕まった。
     「大丈夫か!?」
     死を覚悟したとき、そこに天竜の顔があった。拓馬を捕まえたのは黒き鳥ではなく、天龍のほうだったのだ。
     拓馬をバスの中に引きずり込みながら、天龍は言った「さっきのアドバイス、忘れちまったか?」と。ワンテンポ置いて天龍は続ける「あー、そういや拓馬は初めて…初陣だったな。わりー、わりー。だがな、どんなベテランだって恐怖は感じる。むしろ、恐怖を感じないというやつは本当の恐怖を知らない未熟者だ。こうやって恐怖を肌に感じ、そのときにどういう行動ができるか。そこで俺たちの価値は大きく変わってくる。それだけさ」
     
     拓馬がようやく落ち着きを取り戻したそのときだった。
     バスの上に何かが飛び乗ったかと思いきや、先の黒き鳥が天井にあいた穴から首を突っ込み、レンジャーの一人に襲い掛かったのだ。
     クレッチマンたちはすぐに銃で応戦するも、襲われたレンジャーは先と同じようにさらわれてしまう。
     開いた穴から上空に向かってショットガンを撃ったクレッチマンは言った。
     「くそ!対空砲が無けりゃ【シュヴァルツヴァルター】のえさ確定だ!おまけに航空支援すらないなんて!」
     「弱音を吐くなレンジャー。奴らが腹ペコなら、手投げ爆弾でもくれてやれ。ま、とにかく移動だ」
     
     一行はできる限り天井のある建物の中を進んだ。その過程で天龍は拓馬に「あれを見たのは初めてか?」と聞いた。
     拓馬は言う「前にも見たことが…ありますが、名前は知りません」
     「さっきのは【スメルチ】。つまり死神だ」
     
     ―――たしかにその名のとおりだ。拓馬はつくづくそう思った。グライダーのように音も無く天空から襲い掛かり、突然人間をさらっていく。まさに死神か悪魔と呼ぶに相応しいだろうと。
     
     続けてクレッチマンが言う。
     「ブラウエライターのデータベースではスメルチ。正しくは【ウクライーンシキ・スミャルチ】になっている。…発音が合っているか判らん。ロシア語は苦手だ。で、意味は「ウクライナの死神」さ。データベースの図鑑によると、その名のとおりウクライナ地方で大暴れしたことからその名前がついたそうだ。ただし、最初に奴が確認されたのはドイツのシュヴァルツヴァルト地方なんだがな。だから図鑑の補足には【シュヴァルツヴァルター・ドラッへ】とも記入されている。あとは「ブラック・ドラゴン」っていうシンプルな英語名もあるな。俺はシュヴァルツヴァルターって呼ぶぜ。あとついでにだ。そいつの上位クラスに【ベラシーラ】っていう白い竜(シュネー・ドラッヘ)が居るそうだ。なんでもジェット機よりも早く飛び、ミサイルを食らってもビクともしないとかいうイカサマな奴だそうだが…」
     
     このあたりになると、ビルは廃墟というより生活感が伺えるようになってきた。
     拓馬は、このビルは缶詰工場だと思った。作業テーブルやベルトコンベアーがあるためだ。
     
     「で、ケンプファー。ここは初めてか?このシタデル(ツィタデレ)は日本一の缶詰製造工場なんだぜ」
     きょろきょろする拓馬を見たクレッチマンが言った。
     「ドイツ人の俺が言っても説得力がないが、ここは俺の育ち故郷だ。先週まではLEDで野菜や果物を育てて、缶詰による輸出もしてたんだ。だが先日モウザー級の攻撃で隔壁がぶっ飛ばされてこの有様さ。雑魚の大群が洪水のようになだれ込んできて、女子供や食べ物を片っ端から食い荒らしたのさ。俺の嫁もヘルハウンドに食われちまったよ」
     拓馬はどう返事をするか迷ったが、心に現れた正直な感想を言った。
     「かわいそうに…」
     「ああ。喰われながらも嫁は助けに来た俺に「逃げて」っていったが、俺は犬をぶち殺して助け出したさ。でも、衛生兵に託したらすでに事切れていた。…来月には【島】へ引越しできたんだがな。何度も何度も上層部に掛け合って、ようやく移住切符を手にしたのに、結局何もかも遅すぎたんだ。もしそれが一ヶ月だけでも早ければ、嫁は島にある安全なマンションで俺の帰りを待っていたはずなのに」
     まだ食べられそうな缶詰を見つけると、クレッチマンはひとつを拓馬に投げた。そしてまた幾つかを拾い上げ、上着の中にしまい込む。
     
     着陸地点を離れてから30分が経過したころだ。
     拓馬らが比較的損傷の軽い美術館に足を踏み入れると、そこには思わぬ歓迎者が居たのだ。
     
     「誰かと思えば天龍将軍?」美術館の2階フロアで、大型ライフルを構えたレンジャーが言う「将軍様が最前線で何を?」
     「見てのとおりだ、中野。元気だったか?」
     「見てのとおりだ、将軍」
     中野と呼ばれたレンジャーは、ライフルを持ったまま停止したエスカレーターから1階へ降りてくる。そして天龍の後ろに居る拓馬に視線を向ける。
    「新しいケンプファーか?」美形で性別がよくわからないレンジャーはそう言った。
     「こいつは拓馬。88人目のケンプファーだ。間違っても誤射するなよ?」
     「―――しないさ。そういう将軍様こそ、新人を戦場で死なせるなよ」
     だが、思いっきりため口で話しかけるレンジャーに、クレッチマンが食らい付いた。
     「おいあんた。言葉使いに気をつけるべきだと思うぞ」
     だが天龍は「気にするな」と言い、事態の悪化を未然に防いだ。
     
     「…ああ、そうだ。紹介してなかったな。こいつは中野美樹(なかのよしき)。お前の先輩であるケンプファーだ。女の子だぞ」
     天龍の言葉を聞き「なんだって!?」と反応するクレッチマンと、その一方で「真面目に出鱈目言うな!」と反論する中野が妙に印象的だった。 
     「で、お前はここで何をしてんだ?」と、天龍。
    「俺は警戒任務で町を見張っていた。そうしたらシュトルムピオニアの連中から援護要請を聞いた。だから援護に来た。生き残りなら3階に居るぜ。こっちだ」
     中野の案内で美術館の上層へ行く一行。
     クレッチマンは言った「ケンプファーなのに剣(シュヴェート)を装備していない?」
     「俺はエー“デブ”ベルト元帥の支持者じゃないが、この21世紀で剣と盾を使うのはアホらしいと思う」
     その言葉を聞いたシンはため息をつき、“so what?”と言いこぼす。
     そして中野が言うのはブラウエライター海軍のエーベルト元帥のことである。言うまでも無く、デブ呼ばわりしている地点で嫌っていることは明白だ。拓馬自身もエーベルトという人物は知らないが、嫌っているというのは理解できた。
     
     続けて中野は、愚痴るように言った。
     「そこの新人はどうかはわからんが、ケンプファーになりたがるガキの殆どは、プロパガンダを鵜呑みにしている。悪者と戦う騎士なんていうのは、アニメの中の世界だけだ。戦争がカッコいいとか抜かすやつは、ただの世間知らずに過ぎない。そこの将軍様みたいにデキる人も居るが、多くのケンプファーは戦場で苦しみもがきながらくたばる運命にあるのさ」
     「お前もじきにそうなるさ。はっはっは」クレッチマンは皮肉をこめて言う。
     「あんたもな。とにかく、ただひとつ間違いないのはこれだ。戦場じゃエリートもクズも、みんな平等にくたばる。そんだけさ。後は逃げて生き延びるずる賢いやつだな。…おれはどれも選びたくないが」
     
     美術館の3階は食べかけのケーキのように、壁の一部が崩れ落ちていた。しかしそれでも、この近代的な美術館はほかの建物よりは頑丈そうだ。モウザーの爆撃から身を隠すには最適な場所だったに違いない。そしてここには、ざっと数えて10人ほどのレンジャーが身を潜めていた。だが先の話とは違い、モウザーと対決できそうな重装備は持っていないようだ。
     「天龍将軍!」
     シュトルムピオニアのレンジャーたちの中から、違和感を覚える甲高い声が聞こえた。
     「よう!ずいぶん久しぶりだな」と、天龍。
     
     声の主が現れたとき、拓馬はわが目を疑った。
     何処かの学校制服に身を包んだ美少女が現れるなんて、どこの誰が想像できただろうか?まるでクレオパトラのようなおかっぱ…というよりは、いわゆる姫カットの少女は、まるで花を撒き散らす天使のようにも思えた。…だが、彼女の存在は違和感の塊だ。年頃男子として、拓馬は可愛らしい女の子の登場は歓迎するべきだと思った。だが納得するには疑問が多すぎる。彼女は学生服を着ているので、非戦闘員だ。非難が間に合わなかったのか?それともシュトルムピオニアたちが保護していたのか?
     
     結論から言えば、拓馬の考えは当たっていない。
     
     「最前線で活動ですか。相変わらずですね、教官」
     「元気そうで何よりだぜ。他の男共にセクハラされたりはしていないな?まあ、さくらに手を出せる奴なんて居ないだろうがな」
     「それは一体どういう意味ですか、教官」
     「なあに、深い意味は無いさ」
     
     ―――拓馬はこの地点で、彼女がただの女の子ではないということを理解した。先の薊夜さつきとは正反対で、特におびえる様子もなく堂々とし、如何なる困難にも立ち向かおうとする闘志を感じさせる顔立ち。そして腰にはサーベルを携帯し、背中には自動小銃(しかもキーホルダーつき)までぶら下げている。それらが意味するのは…。
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