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記事No.19 [テイルズオブケンプファー#9 青春無き子] 返信ページ | |
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■19 テイルズオブケンプファー#9 青春無き子 | |
□投稿者/ Castella 13回-(2012/06/07(Thu) 20:35:36) |
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―――拓馬はこの地点で、彼女がただの女の子ではないということを理解した。先の薊夜さつきとは正反対で、特におびえる様子もなく堂々とし、如何なる困難にも立ち向かおうとする闘志を感じさせる顔立ち。そして腰にはサーベルを携帯し、背中には自動小銃(しかもキーホルダーつき)までぶら下げている。それらが意味するのは…。 「それより拓馬。紹介しとこう。こいつは黒松さくら。お前の先輩に当たるケンプファーだ」 拓馬は天龍が言うことを信じられなかった。だが彼女が自分以上に戦場で落ち着いている事と、武装した姿を見直したところで、それが現実だということを理解し始める。…だがしかし、学校制服を着た女の子が武装しているなんて、やはりおかしい。そんな拓馬は疑問の目で彼女を見ていたら、やがて相手側にもそれが悟られたようだ。 「私の顔に何かついているか?」 男口調でしゃべる黒松さくらの声を聞いたとたん、拓馬は以前のことを思い出した。 待てよ?前にもこんな「男女」と出会わなかったか?と。 そして相手側も、同じようなことを言った。 「おまえとはどこかで会ったような気がするぞ?」 だが、拓馬とさくらの会話は続かなかった。 崩れた壁際で外を見張っていた、シュトルムピオニアの隊員が「マズイ!」と叫んだ途端に爆発が美術館の一角とその隊員を飲み込んだ。 拓馬たちは無傷だったが、状況は芳しくない。今の攻撃はモウザー級ガイストに間違いないだろうが、こちらにはそれに対抗できるだけの装備が無いのだ。 「やれやれ。また見つかったか」 中野美樹は崩された窓際で大型の狙撃用ライフルを構え、モウザーの足に発砲した。不気味な叫び声が轟いたが、すぐに美術館に反撃という名の爆撃を加えてきた。そこで中野は言った「で、天龍将軍。奴をどう始末する?見てのとおり手持ちの武器では手も足も出ない」 「ユンゲルスの話によると、シュトルムピオニアは戦車やバズーカを持っているって聞いたぞ?」と、天龍。 ワンテンポ置いて隊員が口を開く。 「…全部失ったんです。突然のことでした」 シュトルムピオニアの生き残りたちは言った。 モウザーを排除するべく出動したが、大通りで待ち伏せ攻撃に遭って返り討ちにされたと。戦車は真っ先に粉砕され、応戦しようとした隊員たちも、ヘルハウンドやナーベル級のような小型の雑魚の群れによって没したのだ。生き残りの者達も逃げるのが精一杯だったので、機材を持ち出す余裕などこれっぽっちも無かった。 「俺が知る限り、シュトルムピオニアはボンボンのガキと同じで、戦車以外にも贅沢な玩具をたくさん持っている筈だぞ?」 中野はひねくれた言い方をするが、その内容は大体あっている。 戦場大工とも言われるシュトルムピオニアは、通常のレンジャーとは異なる装備と任務を持ったエリート部隊だ。具体的に言えば、クレーンやブルドーザーなどの重機を用いた建設作業や、道路や橋を架けるインフラ整備などが活動概要である。そういう「なんでも屋」という任務の性質上、依存の建物や地形を変える作業も必要であるため、最低でも爆薬程度は装備しているはずだ。 「なら、装備は大通りに置いてきたってことだな」 モウザー級の爆撃が続く中、天龍は友達を集めて遊びにいくかのようなノリで話した。 「そういうことで、だ。これからモウザーを仕留める。さくら、クレッチマンと拓馬、シンを連れて大通りへ行け。車列の残骸から爆薬を探してくるんだ。見つけたらモウザーの背後にあるビルまでこっそり移動して、ビルを爆破して奴を下敷きにするんだ」 「了解」 すんなりと承諾するさくらとは反対に、クレッチマンは異議を訴える。 「将軍、モウザーは亀のように鈍足ですが、鈍感ではありません。我々が建物の外に出れば狙い撃ちにされてしまいます」 「ああ。だから俺が囮になる。その間にささっと済ませてくれればいい」 「しかしそれでは将軍が危険です!」 ただでさえ危険を冒しているのだから、もっと慎重になってほしいと言うクレッチマン。 「誰がやっても同じさ。それに、言いだしっぺは俺だ。だから俺がやる。あとは中野だ。お前はどこか高いところに陣取って、適度にモウザーに嫌がらせしろ。あとはシュトルムピオニア諸君だ。けが人が居るようだから撤退しろ」 彼らはけが人を連れて、拓馬らが来た道を戻っていく。 だがそれでも数名がこの場に留まった。一緒に戦う気があるようだ。 「…爆薬が使える人が居るだろう?僕が手伝おう。これでも爆発物エキスパートだ」 シュトルムピオニアの青年は負傷していたが、まだ目には自分らの仕事をやり遂げようという闘志が伺えた。 「平沢ユウか?そういや工兵だったんだな。それより、けが人は帰れ。命を粗末にするな。此処は俺たちに任せておけ」と、天龍。 だが、平沢と呼ばれた(シュトルム)ピオニアの言うことは事実でもあった。拓馬はもちろん、他のレンジャーたちも特殊装備の扱い方など教わっていない。特に特殊な任務と作業にあたるシュトルムピオニアの特殊な装備となればなおさらだ。 「将軍、我々は彼らの装備を見つけても扱えるかどうか判りません。折角なので手伝って貰うべきだと思います」と、クレッチマン。 「そういうなら止めないが、くれぐれも気をつけるんだぞ、平沢」 天龍はそういい残し、モウザーの囮となるべく駆け出した。 ―――モウザーのプラズマ攻撃がビルの外壁を削り取る中、拓馬は仲間らの後に続いた。 周囲の風景はいつもどおり、廃墟という名の灰色の世界だ。そしてモウザーがプラズマ爆撃を行う度に、コンクリートの破片がミゾレのように降りかかってくる。 教官である天龍と別行動をとってからというもの、拓馬はまったく違う世界にやってきたような感覚に襲われた。この感覚は、かつて自分が住んでいた難民キャンプが、壊滅してしまった時と似ているのではないか。…現在後ろには、撤収しなかったシュトルムピオニアの隊員たちもついてきているが、皆名前も知らない赤の他人ばかり。…孤独とは、こういうことなのだろうか?拓馬は薄々そう思った。 「車列はこっちだ」男口調でチームを先導するさくら。見た目はただの女の子だが、動きは十分に訓練されたレンジャーと大差は無かった。市街地という入り組んだ戦場では、いつ敵と遭遇するか判らない。常に銃を構え、視線が銃口と一体となって動いている。これなら突然奇襲を受けても、即座に効果的な反撃ができるに違いない。 そんな動きと外見のギャップに戸惑いながら、拓馬はさくらに声をかけた。 「黒松(キミ)は…何者なんだ?」 さくらは足を止めずに言う「ケンプファーだが?」 拓馬は思った。…それはさっき天龍が言っていた。俺が聞きたいのは、君はどこかの学生じゃないか?ってことであり、身分のことを知りたいのだと。 学校制服を着ているということは、通常すでに避難しているはずだ。だが此処で拓馬はひとつの疑問にぶち当たった。学生でも、ケンプファーということは…兵隊として戦わないといけないのだろうか? 「ああ…そうか」 周囲の状況を伺いながら、さくらは何かを理解したかのように声を上げる。 「私はこのシタデルの明星高校に通っていたのだ。これは、そこの制服だ。どうしてこんな動きにくい服装のままかって?それはな、数日前のことだ。私は授業中に非常召集を受けて出動した。着替えとか準備も無く、学校から直接前線入りだ。それでも…いつ学校が再開してもいいように、制服の替えや私物は学校の鍵付きロッカーにしまいこんで置いた。しかし、もう此処で授業を受けることはなさそうだな」 さくらは表情こそは何一つ変わりなく、戦場を見張っている。だが声から寂しさが伝わってくるようだった。 「諦めるなって」と、クレッチマンが元気付ける。だがさくらは諦め気味だった。 ―――さくらの残念そうな顔を見た拓馬は、もう一度やさしく声をかけた。 「アビトゥーア(高卒)になることがすべてじゃないと思うよ」 「そうか?そうではないと思うがな」 さくらは続けて言った。 「私は世話になった孤児院に恩返しをしなければならない。その為には工場のような上級職に就かなければ。少なくとも、私はお偉方のメイドになるつもりは無いからな。だから、私はアビトゥーアにならなければ」 さくらは度々立ち止まり周囲を見回し、危険が無いことを確認してから移動をする。 そして安全確認のため廃墟の影で立ち止まったときだった。クレッチマンが何かを思い出したかのように言った。 「待てよ?ケンプファーは高給取りだって話だが、そうでもないのか?」 「天龍教官のような大物ならともかく、私たちユーゲント(青年世代)の収入はあなた方レンジャーと大差が無いか、それ以下のはずだ」 「そうか。だから任務が無いときは工場で稼ぐんだな」と、クレッチマン。 続けて平沢も口を揃えた。 「一次産業よりは収入が多いからね」 「そのとおり」さくらはきっぱり言う。「だが…このシタデルはもう終わりだ。アビトゥーアになるには転校することを考えないとな」 そして、ようやくシュトルムピオニアの車列跡を見つけることができた。 車列の先頭に居た戦車は証言どおり、溶けて地面に落ちたソフトクリームのようになっている。そしてその後に続く車両も同じ有様だった。 「おい、ケンプファー。あのトラックは溶けてないぞ」 拓馬はクレッチマンが指摘するトラックに目をやった。車列の後方にあるそのトラックは、タイヤがもぎ取られているものの、前方の車両ほど大きな被害は受けていなかった。この様子なら、まだ使えるものが残っているかもしれない。 拓馬とクレッチマンはトラック後部に乗り込んだ。荷台には木製の武器ボックスがいくつか積まれていたので、拓馬はそこら辺に散らばっていた物々の中からバールを見つけ出し、それで木箱を空けた。箱の中身は釘撃ち機(ネイルガン)や火炎放射器、新品のマシンガンとその弾薬。手りゅう弾と発炎筒。そして大型の斧と、スコップの機能を兼ね揃えた巨大な槍であった。 「これじゃモウザーに対抗できない」クレッチマンはため息をついた。すると、二人の背後でそれを眺めていたさくらが言う「あったぞ」 いつの間に見つけたんだ? 驚きの中、二人はさくらからリュックサックを受け取った。彼女曰く横転したトラックの中にあったのだという。中にはレンガサイズの小さなプラスチック爆弾が多数入っている。この爆弾は粘土のように形を変形させることができるほか、幾つかに小分けすることも出来る、便利で分かりやすい爆弾だ。ただ妙なのは、すこしいい香りがすることだ。甘くて旨そうな匂いだ。…これはもしかして食べ物かなにかの間違いじゃないのか?拓馬はそう思って爆弾を口の手前まで持ってくる。 「よせ、ケンプファー!俺も食べたことがあるが、病院の世話になるハメになったんだ!」 クレッチマンの話を聞き、拓馬はしぶしぶ爆弾をリュックサックの中に戻す。その一方で拓馬は思った。これを食べたことがあるのだって?どんな味がしたのだろうか? そしてシンと平沢というピオニアもやれやれ…という具合に首をかしげている。 続けて平沢が言う。「この爆弾はニトロや各種トルエン、それとワックスを混合して作られた油状物質で出来ている。柔らかいから衝撃にも強く、火に投げ込んでも爆発せず燃えるだけで安全なんだよ。起爆装置を突き刺さない限り、ただの粘土なんだ。それでもって…それにはグリコールが入っているから、食べると食中毒を起こすよ」 「さすがピオニアだ。詳しいな」 クレッチマンは平沢に爆弾を渡し、トラックの荷台から降りた。 「よし、これからモウザーを見つけて…」 「―――静かに!」 突然さくらは全員の動きを静止させた。 モウザーに見つかったか?拓馬はそう思ったが、そうではなかった。 「どうした、セーラー服(マトロゼナンツク)?」と、クレッチマンがたずねる。 さくらは音を立てずに道路の反対車線を指差した。横転したバスの上に、ヘルハウンドが1匹。こちらを見ている…。 拓馬たちは明らかに見つかっている。もし奴が群れでも呼んだら…と、考えたその矢先、案の定ヘルハウンドは灰色の空に向かって叫び声を上げたのだ。 そこで平沢がつぶやいた。 「いやな予感がしないか?」 |
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