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    記事No.31 [テイルズオブケンプファー#14 進軍] 返信ページ
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    ■31   テイルズオブケンプファー#14 進軍 
    □投稿者/ Castella 18回-(2012/08/13(Mon) 00:51:46)

      
     
     ―――パイパー丸の階段を下り、鉄製のドアを開ける。拓馬らは船体側面の展望デッキに出た。ここからは海が見える。荒波が絶えない深い青の瀬戸内海には、漁船程度の大きさをしたパトロール哨戒艇や、それより一回り大きい戦闘艦。そしてタイタニック号のように巨大な戦艦という具合に、バリエーション豊かな船舟が浮かんでいた。そして艦隊の上空には、かなりの数のゼグラーフォーゲル・ヘリコプターが羽ばたく。これだけの数を用意するということは、それだけ今回の作戦の重要度が高いことを再認識させる。
     
     軍艦パイパー丸の船体後部には港がある。具体的にはウェルドックと呼ばれる施設で、必要に応じて船尾を下げ、艦内に注水させることで港として機能するのである。そこから小型ボートやホバークラフト、水陸両用車等で海岸などに上陸し、港の無い場所にでも人員や物資を陸揚げすることが出来るのだ。この船はかつて、ブラウエライターがまだ国際連合の一部として動いていた時に、発展途上国の人道支援の為に建造した船である。したがって港や空港が無い発展途上国にも物資を届けられるよう、陸海空問わない移送手段を持つ必要があったのだ。

     艦の年齢は拓馬たちよりも高いパイパー丸だが、ガイストとの戦いのため、今は人道支援ではなく戦争支援をしている。
     だが、この戦争は人類を絶滅から回避させるための戦争。そして、もし…もしもガイストとの戦争が終われば、パイパー丸はこの能力で復興に従事するだろう。つまり、この船は時代に適応した働きが出来るのだ。
     
     
     手すりにもたれながら、南部は拓馬に言った。
     「えぇー風やね!すごく気持ちえぇー!」
     「ああ」
     「泳ぎたいちゅーワケや。ワンピースよりビキニがえぇーなぁ。わてのビキニ姿、色っぽいよ!」
     「そ、そうか…楽しみだ…」
     
     拓馬は女の子の水着に興味が無いわけではない。
     だが…小学生のような体格の、南部の水着姿は…どうだろうか。色々足りないような気がする。だが此処はあえて何も言わないことにしておこう。と、自分の感想をせき止める拓馬。
     
     「…で、水着はもってるのか?」
     いつの間にか二人の後ろに居た天龍が会話に乱入する。
     「今度“ファッションセンターいしむら”で買いまっせーよ」
     「そうか。ビーチに行くなら俺も誘ってくれ。あと女子が増えるなら大歓迎だ。拓馬、頼んだぞ」
     …と、それだけを言って階段を下りていく天龍。
     
     そして何分か経過した後のことだ。南部が溶けるアイスクリームのように、徐々に手すりへヘタレこんでいく。
     
     「ねえ、拓馬ぁ…きしょいちゅーワケや」
     なんだって?と拓馬は思う。
     「船酔いか!?吐くなら海に吐けよ」
     「もう我慢でけへん…」
     拓馬は思った。乙女らしさのかけらも無い。せめて人の見ていないところでして欲しいものだ。
     間違ってでも自分の足には吐かないで欲しいし、船のデッキをそれで汚すのも後々面倒そうだ。何より彼女自身が一番いやな思いをするだろう。
     「だから海に吐けって!」
     
     そういうことで、フェリーから海を見下ろす拓馬。
     波が船を叩き、深い青の中に白い水しぶきが絶妙に融合している。
     しかし妙だ。その深い青の海の下に、明らかに何かがあるように思える。この内海にはクジラの様な大型生物が入り込んでくるのだろうか?と、拓馬は思った。だがガイストという生物が出現した今、どれだけのクジラが生き残っているか。はっきり言って期待できない。では、下に居るのは…?
     
     「ナンゾキヨッタ!」
     南部の奇声と共に、ゴパっと海を押し上げる。「それ」は拓馬たちの目の前に浮上した。
     拓馬は未知の存在の出現に驚愕する。亀の甲羅のようなその物体は薄暗く、ハリウッド映画に出てきそうな宇宙船にも見えた。その物体がパイパー丸に体当たりし、真っ青な南部が階段を転がり落ちていく。手すりにしがみ付く拓馬は興味と恐怖半々でそれを見上げる。
     「アレはいったい何なんだ!?」
     「ディラン、いいから撃て!今すぐに!」
     揺れるデッキを何名かのレンジャーが慌しく駆ける。最初にディランと呼ばれた赤い短髪の、体格のいいレンジャーが手持ち式ガトリング銃で応戦するが殆ど効果が見られない。続けて他のレンジャー達が慌てながらロケット砲でそれを撃つが、相手に効果がないのを見ると急いで次のロケットを準備する。そして「つかまれ!」という台詞の直後、その物体はパイパー丸に体当たりを行った。これはもうひっくり返る!と確信した拓馬は本能的に手すりにしがみ付く。だが大きく揺れただけでまだ転覆はしない。しかしもう一度攻撃されれば危険だ!最悪沈められるだろうと確信する。
     
     ―――だが、確信は現実とイコールで繋がってはいなかった。

     「それ」は突然爆発に包まれ、メトロノームのように大きく揺らいだ。その揺らぎが収まると思いきや、さらに爆発が「それ」を叩きつける。拓馬はその爆発が何者の仕業かを理解した。
    「その調子だ、ヴァールハイト!そのまま止めを刺してくれ!!」
     ロケット砲で応戦していたレンジャーたちが嬉しそうに言った。
    彼らが「ヴァールハイト」と呼んだ、タイタニック号のように巨大な戦艦はさらに発砲し、拓馬らのパイパー丸を脅かす「それ」に打撃を加える。

    「…よし、これでもう浮かび上がってこないだろう!」と、髪の赤いレンジャーが言う。
     海に没する「それ」を、手すりに捕まりつつ眺める一同。拓馬も唖然としながらもそれらに混ざっている。
     先の「それ」は黒い煙に包まれながら瀬戸内海へ没したが、海面には何も残らない。もし「それ」が撃破されたのなら、破片とか残骸がいくつか浮かび上がってくるはずだ。拓馬は心のどこかで「倒したのではなく、逃げられたのではないか」と思った。
     
     「おい、大丈夫か少年?」と、拓馬を気遣うレッドヘアーのレンジャー。
     「なんとか」
     「まるでHGウェルズの宇宙戦争みたいだったな。ヴァールハイトの援護射撃のタイミングも、まさにそれそのものだった」
     「ヴァールハイト?」
     「あの戦艦さ!ディー・クヴェレ・デア・ヴァールハイト。通称ヴァールハイトだ」
     
     そこで顔色の悪い南部が階段を上がってきた。
     それを見たレッドヘアーは獲物を見つけたような猛獣のように目の色を変え、早速口走る。
    「おっと。そこの若きお嬢さん。俺とどこか飲みに行かないか?島の造船所近くに素敵な…」
     レッドヘアーの台詞が終わる前に南部が言った。
    「もう飲んでしもうたよ…」
     南部は魂が抜けたように、拓馬の隣でフェリーの手すりに崩れる。
     それを見て少しだけがっくりしたようなしぐさを見せるレッドヘアー。

    「…ふん。まあいい。それにしても、あんなの今まで見たことが無いぜ。おまえはどうだ、少年?」
    「いいや、こっちも初めて見た」
    「そうか…。だがこいつは少しヤバイだろうな…。此処は島のすぐ手前だぜ?そんな場所にこんな未知の敵が居ていいのかって、俺は思うぜ」
     「確かに、その通り」
     
     拓馬も危機感を抱いている。今のように巨大な軍艦を襲撃し、転覆させようとするガイストが、こんな目と鼻の先に居て言い訳が無い。だが、あんな宇宙船のようなガイストのうわさなんて聞いたこともないし、想像したことすらない。これまで噂に聞いてきた「ガイスト」とは、どれもこれも「有機的」な外見をした小さな危険生物に過ぎなかったのだ。



    ―――作戦開始前の集合時間が迫っていたので、拓馬はレッドヘアーのレンジャー(ディランと名乗っていたような気がする)と別れた後、パイパー丸のウェルドックに入り込んだ。

    「パイパー丸艦長より全てのLV搭乗員へ。まもなく予定地点へ到達する。人員とともに搭乗を開始せよ。整備班は最終チェックを怠るな。繰り返す…」

     ウェルドックには8両の水陸両用トラクターがある。…具体的には上陸車両(ランディング・ビークル)といい、略称はLVという。それらが巣穴の鳥のように身を寄せ合っていた。どれも戦車のようにキャタピラを装備した下半身を持ち、上半身は普通のボートのように開放式となっている。そしてその中の1両には柊と天龍が乗っていて、何かを話し合っている。

    「…ずいぶん若いが、志願兵か?」と、天龍。
    「ええ、そうです。工科大学に通っていたんですが、ついこの前父が死んでしまって…だから母と妹の生活費を稼ぐために志願したんですよ。俺は車両工学と造船学を専攻してたんで、此処に配属されました」

     柊はエンジンの整備パネルを覗きながら続けた。

    「―――本当はジークフリート戦車が良かったんです。最前線(で戦う戦車)は一番手柄を取りやすいですからね。実績を出せば、家族を危険な関西のシタデルから島へと引越しさせられる。…でも見ての通り配属先は「海上タクシー」です。これじゃあ手柄どころか昇進すら怪しいですよ」

     天龍は少しだけ間を置き、簡単に言った「チャンスはあるさ」と。
     そこで拓馬を含む面々がLVへの乗車を行い、天龍指揮下のケンプファーたちが勢ぞろいした。

    「全員揃っているな?」
     面々はそれぞれ返事をした。更に数名のレンジャーとシュトルムピオニア隊員も拓馬らのLVに乗り込む。
     柊が運転席でエンジンを始動させると、全長10メートルほどの水陸両用車は勢い良く声を上げた。

    「みんな、楽にしていいぞ―――」
     天龍が気軽に、そして皮肉をこめて言いかける。
    「―――これから水陸両用のタイタニック号で、楽しいたのしい瀬戸内海クルーズだ。さあいくぞ」

     薄暗いパイパー丸艦内の後部ドアが開き、まばゆい光が入り口の形を現した。
     拓馬らが乗るLVは他のLVの後に続いて船外へ向かう。入り口の手前に到達したところで、LVはスロープを駆け下り始めた。薄暗いウェルドックから外出した瞬間に、世界は急に闇から解放された。目の前には青の海と青空が広々と広がり、本当に遊びに来ているかのように思わせた。LVが着水すると水しぶきが車内に飛び込み、天然の潮の香りが拓馬らの鼻を刺激する。少々荒っぽいものの、確かに天龍の言うところの楽しい瀬戸内海クルーズのようだ。

    「―――戦闘団B(カンプフグルッペ・ブラボー)より司令部(HQ)へ。聞こえるか?」
     PDAで通信を始める天龍将軍。
     そして返事をしたのは、何処かで聞いたことのある女子の声だった。
    「はいっ。良く聞こえます!現状を報告してください。どうぞ(オーバー)」

    「LV426号車で航行中だ。あと、拓馬と南部も居るぞ」
    「了解です。気をつけて行ってらっしゃい」

     ワンテンポ置いて、南部が拓馬に言った。
    「オペレーターはしあちゃんなんだよ」
    「そうなのか?」

     …しあちゃん。空松高校の「天谷しあ」のことだろうか?だが今の声は学校で聞いた声だ。きっとそうなのだろうと、拓馬は思った。


     ―――拓馬らが乗るLV=426はパイパー丸から離れると反転し、大気によってうっすらとだけ見える本州へと舵を向けた。
     海上には別の船から発進して先行している、多数のLVが航跡を引く。そして側面にも後方にも、多数のLVが同じように航跡を引いていた。その上空では多数のヘリコプターが警護しており、まさしく一面が味方だらけであった。

    「…フォーゲル3-9(スリーナイン)よりアンタレス隊へ。我々は車両上空を警護する」と、那智徒虎の声が無線越しに聞こえる。
    「アンタレス・リーダー了解。上空援護は任せたぞ。―――HQへ。我々は上陸地点へ先行し、捜索撃滅を行う」
    「HQ了解しました」と、天谷。

     重武装の戦闘ヘリコプター(アードラーとか言うらしい)らが速度を上げ、一足先に本州へ乗り込もうとする。
     あれだけの数の戦闘ヘリが先行してしまうと、もう俺たちに仕事は残っていないだろうな。と、拓馬は嬉しいような残念なような気がした。
     
    「上陸予定地点へ到達。これより散開して敵を警戒します。アンタレス・ツー交信終わり」と、今度は女性パイロットの声が響く。
    「アンタレス・ワンより全軍へ。近辺に脅威は無い。景観が美しいだけだ」
     攻撃ヘリ部隊のリーダーの声に緊張などは伺えず、本当に遊覧飛行でもしているかのような穏やかさであった。



     だが此処で、急に切羽の詰まった声が無線越しに響き渡った。「…待て!前言を撤回!ガイスト発見!繰り返す!ガイストを発見!!」


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